Club jannmu 2006

出涸らし

2008/02/13
 

出涸らし


朝目覚めると、右側にじーちゃん、左側にばーちゃん。
そして僕のパジャマのズボンはなぜか湿っている。


東に面した木の雨戸の節目の穴から、沢山の細い朝日が

差し込んでいて、まどろみながら、ただその光を見ている

のが好きだった。
細く微かなものや少し太めの光の線がキラキラ輝いて、僕

たち三人はその幾筋ものスポットライトを浴びていた。
幼稚園に入る前のことだ。


ここは老夫婦の営む麻雀屋。麻雀屋の朝は遅い。
僕はそっと布団から抜け出すと、まずはパンツを履きかえる。

そして流しで歯を磨く。流しには今で言う三角コーナー

みたいなのがあって、そこにはいつも出涸らしのお茶っ葉がた

まっていた。それがなぜなのか、僕には不思議でしょうがなかった。


寝間の隣の居間にあるテレビのスイッチをなるべく音がしないよう

に引く。そこにはいつもロバくんがいた。夢中になって見ていると、

じーちゃんばーちゃんが起きてきて、やっと朝ごはん。10時とか

11時ごろだから、今ならブランチというのかな。

普段はなにも言わないけれど、食べるときの行儀だけはうるさかった。


そのころの50円玉は今の500円玉くらいの大きさで、穴あきとそ

うでないのと二種類あった。朝ごはんを食べ終わると、ばーちゃんが

それを一個くれて、僕は裏にある金魚屋さんへ毎日通った。


そこにはブリキでできた大きな水槽があって、その中には緑亀やお玉

じゃくしや金魚やらが僕を待っていた。お玉じゃくしは後ろ足が生え

てるやつや前も後ろも生えてるやつもいて、紙の金魚すくいには強敵

だったが、こいつを集中力でしとめるのだ。一枚あれば結構な時間を

楽しむことができた。ちなみに緑亀をすくうのは簡単だが、それは内

緒にしておこう。どうしてもしとめることができなかったやつは、特

徴を覚えておいて次の日にまた挑戦する。


腹っぺらしの僕は、ここで一旦家に戻り昼ごはんを食べるのだ。でも

ある日、僕の不思議のなぞが解ける日がやってきた。


その日、昼ごはんを食べに帰ると玄関もお勝手口も全開で、どうした

んだろうと思いつつ玄関から中を覗くと、ばーちゃんがあのお茶っ葉

を家中に撒いていた。流しの三角コーナーみたいなのにためてあった

やつだ。

僕はただいまを言うのも忘れその光景をずっと見守った。
お茶っ葉を家中に撒き終わると、ばーちゃんは今度は箒を持ってきて、

玄関から見ると奥のほうの部屋から掃き始めた。箒でお茶っ葉をうまい

具合に操って、部屋の隅っこに溜まった埃やごみを絡め取って行くのだ。
奥のほうから順々に、最後には埃を抱いたお茶っ葉は玄関のたたきに落

とされて、庭箒で集められてお役目終了となるのだった。
その一部始終を目撃した俺は、腹が減っているのも忘れ、ただ感動して

いたのを今も忘れない。
あとで知ったことだけど、お茶って消臭殺菌作用があるらしい。俺が消

臭スプレーを買っている人を見ると、ありゃりゃーと思うのはそのせい

かもしれない。

投稿日 2008/02/13 Feel something | リンク用URL | コメント (1) | トラックバック (0) 
コメント

 


jannmuさんは、
あらゆる事柄を実に注意深く見つめてこられた方ですね。
そして、感動する心が 純粋で、素晴らしいです。
私も、小さい時から、母がそうしてお掃除していた事を思い出しました。掃除機が有っても、畳の部屋には特に茶ガラを撒いてお掃除していた。ヤッパリ私も理由を聞いて納得したものでした。
先人の知恵とは限りなくエコで優しいものですね~・・・
消臭スプレーって、何だか
臭いものにただ蓋をする様で気持ち悪い感じです。
投稿 ウルフのスナフ | 2008/02/13 18:37 

 

 

 

2008/02/13   jannmu
タグ:自然 , 落書き

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